Ⅰ. クレオパトラはバラを愛したのか④ -妊婦を解剖!?本まで執筆!?クレオパトラの意外な面

 前回までのあらすじ

クレオパトラがバラを愛した証拠を探すため、数々の文献をよみあさったわたし。

しかし求める記述は、古代の主要文献にも、シェイクスピアなど有名な中世ヨーロッパ作品にも登場しなかった…。

果たして誰が最初に「クレオパトラはバラを愛した」と記述したのか?ふと、基本に立ち返ろうと思い、Wikipedia「Cleopatra」のページを読んでみることにしたのだった。(日本語のクレオパトラのページに比べて、英語版クレオパトラのページの情報量はかなり充実している)

~~~~~~~~~~~~~

その中でふと、気になる記載を見つけた。

有名な医学者ガレノスの著作の中に、クレオパトラという人物が書いたとされる、医薬や化粧品に関する著作への言及があるという!だがどうやら、ここで登場するクレオパトラはわれらのクレオパトラではないらしい。

しかし、「クレオパトラがそういう本を書いた」という(誤った)認識はある程度広まっていたようだ。16世紀にはその書籍に関する本も出されているという。

もしかしたら…

「クレオパトラという人物が化粧品に関する本を書いた」

⇒「その中にバラが出てくる」

⇒「女王クレオパトラと混同され、バラを愛用したと思われた」

という流れがあったかもしれない!さっそくその著作を調べてみよう。


検索していると、こんな論文を見つけた。

Queen Cleopatra and the other ‘Cleopatras’: their medical legacy (Gregory Tsoucalas, Antonis A Kousoulis, Effie Poulakou-Rebelakou and etc. 2013)

医学論文ですかね。エジプトの女王クレオパトラ、ガレノスの医師助手クレオパトラ、錬金術師クレオパトラ、婦人科医のクレオパトラなど、「クレオパトラ」の名を冠する女性たち…についての研究がまとまっている。

ちなみに「クレオパトラ」という名前は、古代世界において特別レアな名前ではなかったそうだ。かのアレクサンダー大王のお姉さんもクレオパトラという名前だったような(うろ覚え)。


その中の女王クレオパトラの項から、非常に気になった個所を下記に引用する。

(私は英語はあまり得意でないので、解釈ミスを極力へらすため、英文の原文に一部日本語をつけて引用する)

これは美味しかったバラ味のアイス


She was aware of (知っていた)gynaecological diseases and illnesses (婦人科疾患)and had a deep knowledge in pharmacology(薬理学), indeed writing a book on the subject. Some essays were also found beside her head, in her tomb, but are not extant.*1 *1⇒Skevos Z. The anectode history of Metrodora Cleopatra in gynaecology and obstetrics. Athens: Priapeja edit. Frankfurt, 1912.

女王クレオパトラは婦人疾患の知識があり薬理学にも精通していた、実際そのような本を書いている。彼女の墓の頭のそばにいくつか著作があったが、現存していない。


The Rabbi(ユダヤ教の指導者) tells a story that the Queen, supposedly out of scientific interest, wished to open the abdomen of pregnant slave women in different stages of their pregnancy in order to follow the development of the foetus. 

女王が科学的好奇心から、奴隷の妊婦の女性達の腹部を開いて胎児の成長過程を追及したがったという話をユダヤ教のラビが伝えている。


Ae¨tius of Amida (アエティオス・オブ・アミダ アミダという都市のアエティオスさん、mid-fifth century to mid-sixth century), the renowned Byzantine physician, mentioned the aromatic oils Cleopatra used. These were cassia oil, rush blossom and myrovalano (some kind of plum), as well as blossom oil and mastic. When a person wished to have bright skin, he should smear his body with a mixture of flour, clover, the plum and ammonia incense. 

⇒医師であるアミダのアエティオスは、クレオパトラが使ったというアロマオイルに言及している。


As ancient testimonies have consistently cited a Cleopatra as the author of‘Cosmetics’, perhaps we should accept the views of Ae¨tius and Tzetes. Six fragments of her work ‘Cosmetics’ survive in the corpus of medical writings that have come down to us from antiquity. Four are cited by Galen (129 – c200 AD), one by Ae¨tius and the sixth by Paul of Aegina (c625–690). 

⇒クレオパトラの書いたとされる「Cosmetics」は、6つの断片があり、4つはガレノスが言及している。残り2つはAmidaのAetius(6世紀ごろ、アレクサンドリア)とPaulus(7世紀中ごろ、Aegina)が引用している。


Her topical remedies included antiseptics such as realgar(鶏冠石), pitch, turpentine and rose oil.

⇒彼女の局所治療には、鶏冠石、ピッチ、テレビン油、バラ油などの防腐剤が含まれていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~

これは本当にいろいろと気になることがでてくる論文だった。

①クレオパトラという人物がバラの香油を医学的に使っていたことを示す書籍があったこと、

②クレオパトラが胎児の発達過程をみたくて妊婦らの腹部をあける実験をしたという話があること

③クレオパトラの墓で彼女の頭の横に彼女が書いた本が置いてあったこと(こちらについては参考文献を参照できなかった。詳しくはまた後日調べたい)


どの話も、個人的には初耳だ。どれも非常に気になる。少し本筋からそれてしまうが、次回はそれぞれのトピックについてさらに言及する。

にほんブログ村 歴史ブログへ

コメント